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映画感想ーいろんな楽しみ方があっていいじゃない

映画感想 The Counselor(2013)

I think truth has no temperature.

真実に温度などない。

 

「The Counselor」(邦題:悪の法則)【2013年公開】

本作は殺傷、肉体損壊、性愛描写と麻薬喫煙の描写が含まれるため、映倫R15+指定作品になっております。鑑賞の際はご注意ください。

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アメリカ合衆国の小説家コーマック・マッカーシー脚本、リドリー・スコット監督の映画で、アメリカ合衆国とメキシコの国境を舞台にした麻薬取引に関わることになった弁護士の顛末を描いた作品です。人間の基本的な欲望とそれが招いた結果がテーマとして描かれています。

 

主要登場人物を演じる俳優がこの上なく豪華で、マイケル・ファスベンダーペネロペ・クルスハビエル・バルデムキャメロン・ディアスブラッド・ピットさらにはブルーノ・ガンツまで…錚々たるメンバーです。

中でもキャメロン・ディアスの悪女ぶりは特に良かった。彼女はこれまで同じようなギャルっぽい役柄に当てはめられてきた(マリリン・モンローがそうだったみたいに)と感じてたので新鮮でした。先日発表があった彼女の8年ぶりの女優業復帰も嬉しいですね。

 

◆あらすじ

主人公の男性弁護士は恋人にプロポーズするため、彼女に見合う高級なダイヤモンドの指輪を購入します。指輪購入に大金が必要になった彼は、職業柄繋がりのあるライナーという男の麻薬ビジネスへ出資する決断をします。出資に対して実入りは高く、最初は返答を曖昧にしていた主人公も、「今回だけ」のつもりでその話に乗ります。あくまで彼は旨い儲け話に少し関わるだけのつもりでした。もちろん実際にルートに入って売買取引するのは弁護士の彼ではなく、仲介ブローカーやカルテルの手下たちです。しかし取引に問題が生じたとき、主人公は軽い気持ちが招いた想像を絶するしっぺ返しを受けることになります。

 

 

薬物依存への警告

自分がどれだけ大きな犯罪に関わることになるか主人公は想像できておらず、本当に軽い気持ちで麻薬ビジネスに足を踏み入れてしまいます。これは薬物依存症への警鐘ともとれると私は思います。違法薬物は容易に始められ、一度始めると依存スパイラルから抜け出せないと言われています。

一般的な人間が薬物使用にいたる場合、その時は周囲に自分個人または近い人のみしかおらず、犯罪行為と自認し辛くまた他者に対するリスクを認識し辛い状況下にあると思います。「誰にも迷惑かけないから…」と始めることが犯罪組織の悪事を助長(薬物売買利益でさらに犯罪を重ねる)することに繋がり、他人を傷つけるリスクが往々にしてあるのです。物語の背景に麻薬取引があるのは、上記のような怖さも伝えたかったのではないかと考えました。

 

主人公が麻薬ビジネスに関わることに対して警告するシーンが作中繰り返し描かれますが、再三の警告にも関わらず彼は目先の欲に囚われてしまいます。

主人公は公選弁護人として囚人と取引するなど弁護士という職業柄、犯罪関係者との距離が近すぎたことも判断を軽率にした要因の一つと考えられるでしょう。これも薬物依存症の警告と繋がりが深いと考える描写のひとつです。断薬したとしても一度売人と繋がると、向こうから近づいてきて再使用してしまうリスクがあるそうです。一度持ってしまった繋がりは断ち切ることが容易ではないのです。

 

観賞者の視点

この映画を観賞した後はどちらの感情を持つでしょうか。主人公を哀れに思って同情するでしょうか、はたまた主人公の行為の愚かさにあきれるでしょうか。

私は後者でした。繰り返しの警告があったにも関わらず、ことの重大さを認識しないまま主人公は取り返しのつかない判断をしてしまいます。主人公への同情すら抱かせない視聴者の厳しさ、冷酷さもこの映画が伝えたい人間の側面なのではないかと思います。

 

余談

この映画を観てBille Ilishのall the good girls go to hellが主人公にぴったりだな〜と思いました。

薬物依存への警告と記しましたが、物事の大小はあれど軽い気持ちでとった言動で周囲を直接的あるいは間接的に傷つけた経験は、人間誰もが経験してきたことだと思います。

リドリー・スコットといえばエイリアンでもお馴染み容赦ない人間の殺し方に定評がある監督だと思います。またコーマック・マッカーシーもその作品の多くが暴力や殺人をを含んでいる作風の小説家です。そんな人間に対して容赦ない2人が制作に関わったこの作品、なんとも言えない後味の作品です。