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映画感想ーいろんな楽しみ方があっていいじゃない

映画感想 No Time to Die (2021)

Harder to tell the good from bad, villains from heroes these days.

人の善悪が見分けにくい時代なのさ。

 

愛と復讐の物語ここに終幕せりー。

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No Time to Die(邦題:007/ノー・タイム・トゥ・ダイ)【2021年公開】

 

※6代目ジェームズ・ボンドとしてダニエル・クレイグが主演を務めた全5作を観賞済み前提として書いています。全5作の内今作のみR15+指定です。ご注意ください。

 

◆あらすじ

英国の秘密諜報組織MI6の工作員でありながら、一人の女性:マドレーヌ・スワンと恋に落ちた007(ダブルオーセブン)ことジェームズ・ボンド。彼は組織を離れて彼女と逃避行していましたが、切っても切れない過去に彼女との仲を引き裂かれます。それから5年経って過去の宿敵である犯罪組織:スペクターが再び暗躍し始めたことを知ったボンド。スペクターは特定の遺伝子を必殺するナノボットを使ってボンドを亡き者にしようとしていました。しかし、第三者の手によってスペクターは予期せずナノボットの餌食となり、壊滅状態へ追い込まれます。このナノボットはMI6のトップであるMが秘密裏に開発を指示していたものでした。ボンドは悪用を目論む第三者の特定を急ぐなかで、再び愛するマドレーヌと再会を果たすが…

 

 

テーマ

ダニエル・クレイグが演じてきた007(ダブルオーセブン)5作品において“愛と復讐”はそれがすべてとも言えるテーマです。1作目『007/カジノ・ロワイヤル/Casino Royale』(2006)、2作目『007/慰めの報酬/Quantum of Solace』(2009日本公開)では、ボンドはヴェスパー・リンドという女性を初めて心から愛します。彼女の裏切りを知って破れかぶれになりながらも、ボンドは彼女の真の愛を知り、彼女を陰謀に巻き込んだ元凶と言える人物への復讐を果たします。3作目の 『007/スカイフォール/Skyfall』(2012)ではジュディ・デンチ演じるボンドが敬愛する女性:Mを私怨による復讐から守り、4作目の『007/スペクター/Spectre』(2015)では孤児であるボンドは里親に引き取られた過去を持ちますが、その里親からの愛情ゆえに義兄弟から恨まれることになります。このように主人公のジェームズ・ボンドという人物を中心に様々な愛憎劇が繰り広げられてきました。今作でもボンドは複雑な愛情を抱くヴィランと対峙することになります。

 

二人の男の愛

今回の作中で顕著なのは相対する二人の男性が一人の女性、マドレーヌ・スワンに対して向ける愛情の対比です。

サフィンの愛情

スペクターに家族を殺され、その復讐に人生を捧げてきた今作のヴィランであるサフィン。彼は自身の家族を殺した実行犯の男の家を数年前に襲撃しますが男はおらず、そこにいたのは男の妻子だけでした。実行犯の男の子どもというのは当時まだ幼かったマドレーヌ・スワン、その人でした。当然報復のため彼女を殺そうとするサフィン。少女のマドレーヌは命からがら逃げ出しますが、凍った湖に落ちて身動きが取れなくなります。彼女がすがる思いでサフィンに助けを求めた時、サフィンは初めて已自身を求められることに幸福を覚えます。彼が感じた彼女の生への渇望は転じて、彼女との繋がり(救い救われる関係)でしか満たせない欲求へと変わり、それはサフィンの中でマドレーヌに対する愛とも言える感情へと昇華されていきます。それと同時にサフィンは家族を殺した実行犯の娘であるマドレーヌのことを憎く思っており、マドレーヌに対する歪んだ愛情はさらに捻じ曲げられてしまいます。

 

ボンドの愛情

気が強くて美しいマドレーヌはヴェスパーと重なる部分も多く、再び愛を信じようとするボンド。敵の策略によりヴェスパーと同じくマドレーヌにも裏切られたと彼は感じてしまいますが、それでも彼はマドレーヌを愛さずにはいられません。さらにヴェスパーを最終的に救えなかった過去と、これまでに罪のない女性を任務に巻き込み、死に追いやった罪悪感も彼には付いてまわります。そんな過去への贖罪もあり彼はマドレーヌを自身の命に替えても守りたいと思っています。

 

サフィンとボンドは作中において一見すると善と悪という対立的存在ですが、作中サフィンが言及するように両者は非常に似通った部分があり、正に一枚のコインの裏表と言える存在です。ゆえに最後はどちらも幕引きを迎えるという終わり方が妥当であったと思います。

 

俳優への餞

これまで作られてきた映像作品の中でも様々な女性を愛するジェームズ・ボンド。彼というアイコンにはファンも多く、世界中から愛されており、文字通り愛に溢れたキャラクターです。ダニエル・クレイグ=ボンドの5作の脚本も過去の007映像化作品群に敬意を示すとともに、彼をとりまく愛と復讐を描ききったと思います。配役当時から世論の賛否の中でジェームズ・ボンドを演じてきたダニエル・クレイグでしたが、今作は彼の有終の美をかざるための作品と言えるでしょう。次のボンド役が誰になるのか期待の大きさ故にいろいろ噂は絶えませんが、初めて国王治世の国家に愛国心を捧げるボンドになるんですから話題性は抜群ですね。

 

余談

今作を見るために前4作品を連続で観ました。それまで割と金や私怨といった理由で行動してきた悪役の感情が、ここにきて急に複雑化した印象があり、新しい設定や新しい007など情報も多くて一回観ただけでは理解し辛かったです。作中説明が多かったのに、肝心なことは明確に書かれていないように思えるシーンがありましたし(勿論尺の都合もあると思いますが)、時には説明的すぎてここに来てボンドが非常によく喋るなぁ笑、という印象もあった作品です。監督と脚本家が変更になった影響は少なからずあったのかなと思います。

全5作品の中で撮り方はスカイフォールとスペクターを担当したサム・メンデス監督下での撮り方が好きです。特にスペクターのオープニングの長回しは画角といい構図といい何度見ても惚れ惚れします。

MGMのライオンもついにフルCGになってしまってて、ちょっと残念です笑