映画感想 Doctor Strange in the Multiverse of Maddness (2022)
Just because someone stumbles and loses their way doesn't mean they're lost forever.
一度道を見失っても永遠に迷うわけではない。
Doctor Strange in the Multiverse of Maddness(邦題:ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス)【2022年公開】
※Disney+のMARVEL作品ドラマシリーズ『WandaVision』、アニメーションシリーズ『What if...?』シーズン1のネタバレを含みます。ドクター・ストレンジ第一作目の『Doctor Strange/ドクター・ストレンジ』(2017年日本公開)も観賞済み前提として書いています。
これからどんどん続くMCU作品の感想って書きにくくて悩んだんですけど、ワンダ・マキシモフというキャラクターのひとつ区切りとして書いとこうかなと思います。
◆あらすじ
アメリカ・チャベスは平行宇宙(マルチバース)を自由に行き来する能力を持っています。彼女は自分ではコントロール不可能なその能力を何者かに狙われていました。ドクター・ストレンジは彼女を危機から救うため、強敵サノスとの戦いで共闘したワンダ・マキシモフに助けを求めます。しかしワンダこそがアメリカ・チャベスの能力を奪おうとしている張本人だったのです。ワンダの行き過ぎた愛情は彼女自身を、失った息子たちを取り戻すため誰かを殺すことも厭わないスカーレットウィッチへと変貌させていたのでした…
訓戒
今作は随所に聖書的表現が目につくように描かれているなというのが最初の感想でした。ドクター・ストレンジが水をワインに変えたり、「禁断の果実」たる林檎が出てきたり、私が知らないだけで作中他にもそんな表現があるかもしれません。「禁断の果実」というのは、不法・不道徳メタファーとして使われることが多く、ワンダが林檎の木の枝を切っているシーンは特に彼女が不道徳な行いをすることへの戒め的表現と捉えることができます。(このシーンの台詞でも同じような内容を言及しています。)人を甦らせることは勿論だけど、魔術自体が神への冒涜的行為というメッセージが今作から読み取れました。
日本人にとって魔女はアニメなどの影響もあってめちゃくちゃ悪いイメージがないもののように感じますが、西欧では魔女狩りの歴史から魔女は正義になれないし、宗教的悪であるという位置づけがあって、前述の聖書的表現も相まって今作はそれをしっかりはめ込んできた作品だと思います。
訓戒…物事の理非・善悪を教えさとし、いましめること。
間違ったことを指摘してくれる人が周りにいるか?
ワンダが自身のしようとしていることに罪悪感を持っていることは確かです。ドリームウォークのとき遠巻きにワンダの叫び声が聞こえたり、序盤で彼女が使い魔をアメリカ・チャベスにけしかけたりするのは自ら手を下すことで被る罪悪感から逃れるためです。林檎の木も(不道徳の)果実が実らぬように、彼女自ら枝を切っています。
そんな折彼女がやろうとしいていることは間違った行為だとドクター・ストレンジは引き止めようとします。現実に置き換えると、そうやって間違ったことをちゃんと指摘してくれる人が周りにいることがいかに大切なことか改めて気づかせてくれました。もちろんこの指摘とは感情的、攻撃的な誹謗中傷とは全く異なるものです。SNSの普及でさまざまな情報や意見にさらされる日常と鑑みてしみじみ思いました。
『What if...?』のストレンジ回との繋がり
今作はアニメーションシリーズ『What if...?』の第4話と繋がりがあると思います。第4話を事前に観てたからこそイルミナティがドクター・ストレンジをあれだけ警戒しているのがなぜなのか分かるし、ドクター・ストレンジの世界観がより魔術的な次元のものであると冒頭から認識できました。
皮肉にもこの第4話に出てきた魔術師オー・ベンの言葉が今作(MoM)でのワンダの状況をよく表しています。
There is a fine line between devotion and delusion.
献身と妄想は紙一重だ
Love can break more than your heart. It can shatter your mind.
愛は心以上に理性を蝕む時もある。
想起
息子たちへの愛着が故にワンダは別バースの自分に成り代わって子どもの元へ行こうとします。この描写から日本の里親制度が想起されました。児童福祉法に基づいて子どもを預かる里親制度は委託に実親の同意を必要とします。里親と子どもに法的な親子関係はなく、実親の意向などで委託が突然解除され、里親のもとから離される例も少なくないそうです。
もちろん実親、里親は今作とは直接関わりありませんが、子どもを別バースのワンダから引き離そうとする点が里親と引き離される子どもに重なりました。実親と里親、双方からの愛情に優劣があるとは思いませんが、優劣をつけられるものがいるとしたらそれは血縁関係や制度ではなく子どもだけだと思います。(おそらく相続とか戸籍とかあって綺麗事では収まらない難題なんだろうけど、子を優先できるようになりたいものです。)
結局のところ今作では最近の作品によく見られる「己の敵は己」で帰結しました。別バースのワンダがワンダに対して放った言葉が子どもへの愛情が深い自分のことをわかった上での発言で、それを聞いてワンダは己の野望を諦めます。
余談
サム・ライミ監督のおかげもあって?ホラー要素強い作品になってます。SEがもうホラーのSEですよね笑
ドクター・ストレンジがアメリカ・チャベスに呼びかけるシーンはハリウッド映画らしい作品だなーと思いました。
今作を観るとドラマ『WandaVision』ってよく考えられたブリッジ作品だと思います。アヴェンジャーズって近未来的なハイテク活用するアイアンマンやホークアイもいれば、非現実的な魔術を使うドクター・ストレンジやソーもいるので両者に隔たりが感じられますが、『WandaVision』がその境界を上手くブレンドした作品になってて秀逸です。
林檎の木が登場するシーンを取り上げましたが、ワンダが枝を切っているのは単なる間引き選定かもしれません。そう捉えるとマルチバースの枝分かれする宇宙のうち、気に入らないものは排除するというワンダの野望も垣間見えるので、いろいろ想像させてくれる面白い表現だと感じました。
ほんとのほんとに余談ですが、最後のシャーリズ・セロンのポータルの開き方バージルやんってなったし、冒頭ストレンジが魔物の腕召喚するのもベヨネッタやんってなりました。ベヨネッタ3もうすぐ発売だよ!