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映画感想ーいろんな楽しみ方があっていいじゃない

映画感想 The Sisters Brothers(2018)

He will change. We all change.

We don't have anyother choice. 

だが変わる、我々全員がだ

変わるしかない。

 

「The Sisters Brothers」(邦題:ゴールデン・リバー)【2018年公開】

舞台は1851年、オレゴン準州カリフォルニア・ゴールドラッシュを時代背景とした今作はパトリック・デウィットの同名小説【2011初版】が原作の映画です。

 

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出演俳優はホアキン・フェニックスジョン・C・ライリージェイク・ギレンホールリズ・アーメッドと名優揃いぶみ。作中では視線や表情の移り変わりがなんとも言えない素晴らしい演技でした。

この映画は西部劇でおなじみの19世紀が舞台でも、いわゆるカウボーイやガンマンなどの活劇ヒーローものとはまた違った味わいの物語です。

 

◆あらすじ

雇われの殺し屋:イーライとチャーリーのシスターズ兄弟は依頼主の命令で、金塊採掘に使う薬品の化学式を考案した人物:ハーマン・K・ウォームを追います。依頼主はすでに偵察役のジョン・モリスを派遣し、ウォームの動向を逐一シスターズ兄弟へ報告させて拉致する機会を伺っていました。モリスはウォームと関わるうちに、自分に無いものを持ったウォームに傾倒し彼について行くことにしました。そこにシスターズ兄弟が現れ紆余曲折経て4人は協力関係に至り金塊採掘することになるのですが…

 

今回は作品のテーマについて書いていこうと思います。

 

兄弟

弟チャーリーは野心家で血の気の多い性格、しかも過去に父親を殺めている。兄のイーライは兄らしく振る舞えなかった過去の負い目もあって弟を放っておけず殺し屋を続けているが、本当はそんな生活はやめて根を降ろした一般的な生活に憧れを抱いている。

ちぐはぐな2人ですが困ったら互いに助け合い、疎ましく思う部分はあれど放っておけない関係性が作中によく描かれています。作中些細なことで言い合ったりちょっかいかけたり、2人でいるときは兄弟らしく言い合いしてるけれど、他人の前ではよそ行き顔で会話していたりと、監督が自分の兄弟を重ねて回顧しながら描いているのが伝わってきました。

兄弟、姉妹がいる方は共感する部分があるのではないでしょうか。しかし育った家庭は同じなのに、兄弟とはどうしてこんなにも違う人間になるんでしょうか…不思議。

 

親子

兄弟の前に切り離せない人間関係である親子も作中言及されています。その中でシスターズ兄弟の父親が回想で登場するシーンがあります。暗くて見辛いシーンでしたが、父親は人殺しであるという描写だと思います。「親父の血のおかげで殺し屋をやれる」と兄弟が会話するシーンもあったのでかなりどうしようもない父親であったと伺えます。

一方モリスも原因は分かりませんが父親憎しで家族から離れたと言っています。離れて自由に自分の意志で生きてきたと思っていたけれど、結局父親への憎しみがすべての行動の基準になっていたと自身のこれまでの人生を虚しく思っています。

父親の呪縛を感じながら生きてきたイーライとモリス、2人はそれ以外にも重なる部分があります。

モリスがソローの一節を引用するシーンがありますが、ここに登場するソローとは19世紀の思想家であり作家のヘンリー・デイビッド・ソローのことだと思います。作中序盤にあるこのソローの引用こそモリスが求めるものの示唆でした。

ソローは急速な文明化が進む開拓期のアメリカにおいて超絶主義*1を掲げ、自然との交流の中でどう生きるべきか考えた思想家だったと言います。すでに文明化したヨーロッパ(モリスの家庭然り)からの思想的独立を提唱していたのがソローであったので、恐らくソロー同様フランス系の起源を持つモリスはその思想に強く影響されたと言えると思います。

川沿いで歯磨きをするシーンはイーライとモリスが日々の暮らしに幸せを見出していたことを如実に表したシーンだと思います。

 

新しい家

テーマを総括すると、この物語はそれぞれが広義の"家"(家庭はもちろん環境や社会全体、人を取り巻くもの)を求める話であると思いました。

白人社会から差別や暴力を受けていたであろう(おそらくドイツ系移民である)ウォームは金塊を足がかりにそれらの無い理想の社会を作ろうとしました。

そんなウォームに感化されて自分の人生を生きようと、彼の計画に関わることで幸せを見つけようとしたモリス、故郷で平穏な生活を送ることを夢見るイーライ、裏社会でのしあがって自分が牛耳る理想郷を作ろうとしたチャーリー…

それぞれを取り巻く現状から変革し、新しい"家"を求めて生きようとした男たちの運命が交錯した群像劇でした。

 

余談

小説原作作品としてとてもしっかりまとめられていた映画ではないかと思います。原作を知った上じゃないと話が訳が分からなくなるタイプの作品ではないので未読でもちろん大丈夫!(というか原作では兄と弟が逆転してるのでそもそも原作読者の方からしたらまったく違う作品なのかも…)

ソローの引用の話をしましたが、世界史で有名なキング牧師やガンディーに影響を与え、昨今話題のSDGs的な生き方をしていた人らしいのでめちゃすごい人です。(小並感)

 

好きな漫画ゴールデンカムイにも共通するテーマがあるので観ていて個人的にわくわくした映画でした。

 

毎回記事の頭に作中セリフを引用していますが物語に欠かせないセリフだと思ったものを書き出してます。

*1:人間の内面の神聖さや、神、自然との交流、個人の無限の可能性など、人間の明るい側面を主張し、日常的経験を「超絶」した直感による真理の把握を訴えた19世紀アメリカ・ロマン主義思想